パレード

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「だから、お前が知ってるサトルしか、お前は知らないわけだ。同じように俺は、俺が知ってるサトルしか知らない。良介だって琴ちゃんだって、あいつらが知ってるサトルしか知らないんだよ」
「さ~っぱりわかんない」
「だから、みんなが知ってるサトルなんて、誰も知らないんだよ。そんな奴、この世には存在しないの」
 直輝はそう言うと、ランチボックスからベーコンサンドを取り出した。口の周りをケチャップで汚しながら、おいしそうに頬張っている。
「ちょっと、その訳のわからない説明で終わり?」
 私はもう一度、直輝のお尻を蹴った。
「お前、マルチバースって知ってる?」
「知らない。何、それ」
「じゃあ、ユニバースは?」
「宇宙でしょ」
「そう。一つの宇宙のこと。で、マルチバースってのは、いくつもの宇宙って意味」
「ふ~ん」
 よほど、『だから何よ?』と言い返そうかとも思ったが、なんとなくやめた。直輝が言わんとすることが、ちょっとだけ理解できるような気がしたからだ。ときどき「この世界では誰もが主役よ」などという似非人道主義な科白を耳にすることがある。ただ、そうなると、「この世界」が集まった「これらの世界」では誰もが主役になってしまうわけで、誰もが主役であるというのは、結局誰も主役でないのと同じなわけだ。それはそれで平等な世界のような気もするし、現在の私たちの暮らしにとても近いような気もするが、そんな誰もが主役でない世界になるためには、厳密に言えば、その前にやはり誰もが主役であるこの世界が必要になる。……う~ん、やっぱり、よく分からない。


吉田修一「パレード」より







最近ネタが無いときにはネコが出る私のブログなのですが
今日は久々に、本の話。
しかしながら、この本が好み?と聞かれると、う~ん、好みじゃないかも。
でも、ストーリーの印象がキツイので、記憶に刻まれています。
かなり前に読んだ本です。

初めて読んだ吉田修一の作品がこの話で
ネタバレかもですけど、これは最後にどんでん返しで、サイコな終わり方。
もうびっくりしました…が、
この本のカナメは、実は上に書き写した様なところなんだろうな、と。




若い頃は私も群れていました。
今は、一人で単独行動ばかりが多い。
一人の時のフットワークの軽さに慣れてしまっているし。
それに、一人になった時にいつも、頭の中では何かを考えている。
そういう時間にも慣れきってしまいまって
それが、心地よくもあり、しかし時には苦痛でもあり。


今の仕事は、お客さんはたくさん来ていただきますが
実は、独りの時間も多いです。
多数で仕事をすることに比べると、仕事というものに関しては
私は、独りでする方がとても楽です。




人間の中のそれぞれの宇宙。
知りたいと思うことができるのは、その人に余裕があるから

…とかナントカ、最近ぼんやり考えてみたりして。








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by kunikonakazato | 2013-03-24 20:07 | 音楽・映画・本の話

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